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『山椒魚』井伏鱒二 [児童書]

少し前に橋本紡の小説『九つの、物語』を読みました。
九つの章立てになっていて、それぞれの章が文学作品にちなんだタイトルと内容になっているという構成。

 第一話 縷紅新草
 第二話 待つ
 第三話 蒲団
 第四話 あじさゐ
 第五話 ノラや
 第六話 山椒魚(改変前)
 第七話 山椒魚(改変後)
 第八話 わかれ道
 第九話 コネティカットのひょこひょこおじさん

このうち、読んだことがあるのは、井伏鱒二の『山椒魚』とサリンジャーの『ナインストーリーズ』中の「コネティカットのひょこひょこおじさん」
内田百閒の『ノラや』は、黒澤明の映画『まあだだよ』の原作ですよね?
こちらは、映画は観ましたが原作は読んでいません。(^^;

で、『九つの、物語』を読んで、驚いたのが井伏鱒二の『山椒魚』のことです。
井伏本人が 85 歳で自選集を出したときに、『山椒魚』を改変した・・・という話が出てくるのです。

(あ~、そういえばそんなことがあって、論争になったような記憶が微かにあるなぁ。最後をばっさり削除したって書いてあるけれど、それじゃぁ、どんな風な読後感になるのだろう?)

というわけで、改めて『山椒魚』を読み直してみました、児童書で・・・(笑)
講談社の「21世紀版少年少女日本文学館」シリーズの『走れメロス・山椒魚』・・・こちらに収録されているのは、改変後の『山椒魚』でした。



山椒魚.jpg

走れメロス・山椒魚 (21世紀版少年少女日本文学館)

  •  太宰治 井伏鱒二
  •  講談社
  •  2009/02/27
  •  20×14cm 262p


かつて私が読んだ『山椒魚』は高校?中学?の国語の教科書に載っていたもので、その最後はこんな風でした。

山椒魚の意地悪によって岩屋に一緒に閉じ込められてしまった蛙。
もう、ふらふらになっています。
山椒魚は蛙に聞きます。
「おい、蛙、お前は今何を思っているんだ」
すると、蛙はこう答えるのです。
「今でも別にお前のことを おこってはいないんだ」

改変後の『山椒魚』では、この部分がばっさり削除されて最後の文章は、こうなっていました。

 更に一年の歳月が過ぎた。二個の鉱物は、再び二個の生物に変化した。彼等は今年の夏はお互いに黙り込んで、お互いに自分の嘆息が相手に聞こえないように注意していたのである。

   同上書 p.178 より

そうかぁ、こんな風に改変したんだぁ・・・ちょっぴり寂しい。

国語の授業では、蛙の一言「今でも別にお前のことを おこってはいないんだ」が、どういう意味なのか、蛙はどういう気持ちでこう言ったのか、について、かなり時間をかけて議論したような記憶があります。

あの話し合いは、無駄だった・・・とは言わないけれど、そうかぁ、作者によって切り捨てられてしまったんですね。

今、この改変後の『山椒魚』を読む子ども達の心に、果たして『山椒魚』の話はどんな風に残るのでしょうか?


※ こちらが、今回、改変後の『山椒魚』を読むきっかけになった本『九つの、物語』です。



九つの、物語.jpg

九つの、物語

  •  橋本紡
  •  集英社
  •  2008/03/05
  •  19×14cm 320p


こちらは同書の文庫本です。



九つの、物語(文庫).jpg

九つの、物語 (集英社文庫)

  •  橋本紡
  •  集英社
  •  2011/02/18
  •  文庫

タグ:児童書
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nice! 7

コメント 13

caramelpapa


「九つの、物語」って
サリンジャーそのものですね

改変前・改変後って
なんか面白い

山椒魚の改変
作者はどうしても納得しなかったのだろうなぁ
と思った事思い出しました

山椒魚戦争
難解だった事も思い出しました

バナナフィッシュ
この間もらって来ちゃいました


と言う事で
読みたくなりました

  
by caramelpapa (2011-05-08 19:06) 

春分

メロスと山椒魚の表紙は、うーん、なんか解釈が違う気がします。
山椒魚の話の元の体験があったのかなぁ。鱒二が山椒魚で。

by 春分 (2011-05-08 20:07) 

びっけ

caramelpapa さん、nice!&コメントありがとうございます。
『ナインストーリーズ』は好きな本なのですが、この『九つの、物語』はそれとは だいぶ趣が違います。
妹のもとに現れた兄(幽霊)。兄(幽霊)は、妹に美味しい料理を作ってくれます。
幽霊になった兄は、どうして妹のもとに現れたのか?
優しくて哀しくて、でも読後感は爽やかな小説でした。

『山椒魚戦争』はSFですよね? 名前だけは知っていますが未読です。
そうかぁ、難解なのですか・・・それでは私には無理です。(笑)
by びっけ (2011-05-09 20:55) 

びっけ

@ミックさん、nice!ありがとうございます!
by びっけ (2011-05-09 21:06) 

びっけ

春分さん、nice!&コメントありがとうございます。
いわゆる名作を子どもに読んでもらおうと思ったら、表紙のポップさ?は大事です。(笑)
表紙にだまされて手に取り、それで読んでくれれば御の字です。(爆)
by びっけ (2011-05-09 21:08) 

びっけ

don さん、nice!ありがとうございます!
by びっけ (2011-05-09 21:22) 

びっけ

manamana さん、nice!ありがとうございます!
by びっけ (2011-05-09 21:22) 

びっけ

夢空さん、nice!ありがとうございます!
by びっけ (2011-05-09 21:22) 

びっけ

春日淳樹さん、nice!ありがとうございます!
by びっけ (2011-05-09 21:23) 

Nicole-ay

ああ!まさに今読み始めたところです!文庫本になってから買おうと思ってました。まだパスタを作るくだりです。井坂幸太郎と平行して読んでいるのと最近車で出かけることが多くなかなか進みません。やっぱり読書は電車の中だね^^;
by Nicole-ay (2011-05-09 23:44) 

びっけ

Nicole-ay さん、コメントありがとうございます。
お兄ちゃんが作るパスタ、美味しそうですよね!
Nicole-ay さんなら、この本に出てくる料理の数々、きっと見事に作れるのでは?と思います。

伊坂幸太郎、私も好きです!(^^)v

by びっけ (2011-05-10 22:00) 

すえれん

先ほど、「わらの女」をコメントさせて頂き、
トップページでこちらにお邪魔しました。

山椒魚の、「今でも別にお前のことを おこってはいないんだ」という蛙のセリフで、
自分も中学校時代衝撃を受けたことがあります。
国語の先生が、山椒魚が感じた感情は何ですか?と言う問に、
中学生はああでもない、こうでもないと意見を言いましたが、
先生の回答(?)は「山椒魚は絶望を感じた」とのコメント。

え?なぜ?
と思いましたが、年が降るにつれて同感してしまう今日この頃です(^^;)
by すえれん (2011-06-22 20:52) 

びっけ

すえれんさん、コメントありがとうございます。
そうですね。
私も、年を取って、いろいろな経験をして、若い頃とは違う気付きをすることが少なくないです。
名作とよばれるものは、若い頃は若いなりに、年を取ったらその世代なりに、いろいろと考えさせてくれるなぁと思います。
by びっけ (2011-06-23 20:57) 

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